アルバム紹介&解説 『Tetsuo & Youth』by Lupe Fiasco ①

We all chemicals, vitamins and minerals. I am Phantom.

今回はコンシャス中のコンシャスラッパーであるLupeから『Tetsuo & Youth』の紹介です。ラッパーの特性上、解説を含むのでとても長くなります。Spoiler Alert!

(正直ちゃんと解説しようとしたら一曲一記事にしないといけない、よって解説は軽め)

まずタイトルの『Tetsuo & Youth』についてです。Tetsuoというのは、アニメ『AKIRA』のキャラクター・鉄雄から来ています。鉄雄は強い劣等感を抱いていたことで、超能力を手にした後精神が崩壊してしまうキャラなんですが、そんな鉄雄に対してある種の共感を抱いていたそうです。インタビューで言ってました。「じゃな スポーツマン」ではない

Youthはそのまま子供のことを指していて、イントロ、インタールード、アウトロに子供の声として聴くことができます。黒人であることで、子供時代には沢山の苦労が存在します。ルーペはそんな子供の頃、そしてそんな子供のままの今の自分をアルバムを通して描きたい、という意味でこのタイトルにしたそうです。

このアルバム、トラックリストを見てもらうとわかるんですが、4つの季節からなっています。まずアルバムのイントロの『Summer』から始まり、次のインタールード『Fall』までの3曲は、ハッピーで前向きな曲です。夏という季節はあったかくてハッピーなので。

『Fall』から4曲は、秋らしく少しずつ暗い成分が出てきます。そして『Winter』からアウトロ『Spring』までは冬という、冷たくて暗い季節を象徴するようなハードで冷たい曲になってます。それぞれの季節を象徴する構成になっているということです。

では、『Mural』から解説していこうと思います。これは、ルーペが今持っているラップスキルを全て発揮した、自己紹介的な曲になっています。最初のラインからカッコいいです。
We all chemicals, vitamins and minerals. Vicodin with inner tube, wrapping around the arm. To see the vein like a chicken on the barn.
これ、ルーペの言葉遊びが良くて、最初のところは、みんな同じものからできてる=全員イコールだ、というメッセージです。その次はルーペの凄さの一つの例です。ヴァイコディンっていうのは薬なんですが、注射するときに静脈を見やすくするために腕になんか巻いてますね(Vicodin with innertube, wrappin around the arm to see the vein)。そのあとの部分(like a chicken on the barn)っていうのは、農家とかの屋根の上にある鶏の形をした風向計を指してるんですが、風向計は英語で「vane」なので、静脈を意味する「vein」と同じ発音になります。風向計と同じくらいはっきり見えるようにしてるよ、ってことですね。こういう言葉遊びがルーペのすごさです。

次の曲『Blur My Hands』は、有名になるにつれて現れるヘイターやその他様々な自分を邪魔する存在に関するものです。他人の声はどうでも良くて、自分自身であり続けることが重要なことだ、というメッセージです。

『Dots & Lines』は文字通り「点と線」を意味していて、ルーペのファンとの繋がりや、あらゆる関係性に関する曲になっています。特にルーペの所属レコードであるAtlantic Recordsとの関係性が大きなテーマであると言えます。実はルーペ、このアルバムがAtlantic Recordから出す最後のアルバムだと宣言してました。事実、この次のアルバム『DROGAS Light』は別レーベルであるThirty Tigersから出されてます。Atlanticを批判するような内容ですね。

秋を迎え、最初の曲は『Prisoner 1 & 2』です。事実上『Prisoner 1』と『Prisoner 2』の2曲分です。それぞれ3人ずつ登場人物がいてですね……

『Prisoner 1』では、
  • マジモンの犯罪者
  • 神に祈る犯罪者
  • Atlanticとの契約に「囚われた」ルーペ
の3人。
『Prisoner 2』では、
  • 刑務所に勤務する人
  • 神を疑う犯罪者
  • Atlantic Records
の3人です。これらがレイシズムや貧困といった、黒人社会を取り巻く問題に触れている曲になってます。解説するのが大変なのがルーペ・フィアスコです

次の曲『Body of Work』は、Common『I Used To Love H.E.R.』みたいな曲で、ヒップホップとルーペの関係を描いています。特に3つめのバースはトラップとコンシャスの対立をテーマにしているように聴こえます。トラップに目がない(売れるので)ヒップホップ業界でも、ルーペはヒップホップを愛しているから離れられないのです。東で生まれたヒップホップが西に渡って変わっちゃった、って言ってたコモンと似た話だね

次の曲『Little Death』は、宗教と政治の対立についての曲です。特に3バース目は裁判所に関する問題を指摘しています。人の欲とも関係している気もします。『KOD』における”Kill Our Demons”と似たコンセプトとも言えます。

『No Scratches』はファンに対する曲です。ルーペ(と、客演のニッキー・ジーン)は、ファンに対して忠告をしています。アーティストとファンの関係性が、「アーティスト⇆ファン」を超えてしまうことはよくあることです。ある一定の距離を保たないと関係性が悪化して最終的に壊れてしまうので、そうなる前に離れてほしいということです。

そして冬を迎えます。冬は寒くて、家から出ることも少なくなります。ある意味、家に「囚われる」ということでしょう。

ここからの2曲『Chopper』『Deliver』は、ルーペらしからぬトラップビートで、ハードなトラックになってます。どちらの曲も所謂ゲットーが舞台になっていて、ゲットーで育つ子供がどんな生活をしているのか、というテーマになっています。「Chopper」とはスラングでアサルトライフルのことを指しており、ギャングの抗争とそれによる犠牲者に関する曲です。「Deliver」はデリバリーピザなどの、出前のことを指しています。ゲットーではギャングの抗争が起こり、常に犯罪の温床になっているため、宅配ピザを頼んでも届けてくれない、という治安の悪さを表現した曲です。

次の曲『Madonna(And Othet Mothers In the Hood)』は、ゲットーで子供を育てる母親のことに関しての曲で、上記のような治安の悪い地域で子供を失くしてしまう母親が描かれています。曲の最後に母親はなぜ息子が死ななければならなかったのかを理解できないまま終わってしまいます。悲しい

ここからアウトロ『Spring』に向かっていきます。『Adoration of the Magi』は、ゲームの話がすごい出てます。メタル・ギア・ソリッドの話とかしてます。「adoration of the Magi」っていうのはキリストのことを指しているそうです。「Magi」というのは聖母マリアを指していて、その愛の対象なのでキリストということらしいです。クリスチャンじゃないのでここら辺は曖昧

つまりこの曲が伝えたいのは、母親が子供に対してどれだけ深い愛情を、持っているかということで、だからこそ子供たちに対して、安全に生きることを勧めているのかも知れません。あと、これはRap Geniusの解説見てからわかったことなんですが、サビの部分は、赤ん坊がアルバムカバーになっているものを示唆しているらしいです(『Ready to Die - The Notorious B.I.G.』や『Nothing Was The Same - Drake』など)。マジでルーペ・フィアスコ天才だろ

そして春になる前の最後の曲『They. Resurrect. Over. New.』です。それぞれがピリオドで区切られているのは、略して「T.R.O.N」だよ、ということを指していて、『TRON』という、ルーペが生まれた年に発売されたゲームのことらしいです。Pete Rock & CL Smoothの『They. Reminisce. Over. You』を知っている人にとってはわかりやすいかもしれません。

この曲が指しているのはサビの
Proceed to the next level.
に集約されてます。ルーペのリリックを聴いて学び、人間として次のレベルに進む、だとか、プライドを捨てて認めることによって次のレベルに進んだりといった、人間としての次のステップを指しています。次のステップに進むためには、人間は様々な障害を乗り越えなくてはいけません。がんばろう

そして少し希望が現れたところで、アルバムも春を迎え、これからの世界に対して希望を抱きながら進めるということで、アウトロ『Spring』になるわけです。

と、ここまでがアルバムの解説です。めちゃくちゃ長くなってしまった。長い記事を書いた僕を労ってくれる彼女が欲しい。


NBAクラスタなら知っているであろうルーペの名曲『Kick, Push』収録の1stアルバム『Food & Liquor』も最高なので聴いてください。

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