アルバム紹介&解説 『Tetsuo & Youth』by Lupe Fiasco ②

Proceed to the next level. ファントムです。

前回の記事で、同アルバムの解説をしてきました。一曲一曲を説明したので、どうしても簡単な説明になってしまいましたし、全体で見ても長かったですね。それでも、もう一つ解説として付け加えなくてはならないものがあります。

前回の記事で曲ごとの解説をしましたが、アルバム通してという意味では、あまり繋がりが見えないんじゃないかな、と思います。それもそのはずで、実はこのアルバム、普通に聴くだけだと多面的な理解ができないのです。

このアルバムには季節があります。順番通りなら、『Summer』に始まり、秋冬春と流れていきますが、ルーペはインタビューで、逆から聴くようにアドバイスします。というのも、ルーペはマンガやアニメなどの大ファンであり、それはタイトルの「Tetsuo」が示している通りです。マンガは、文字が縦書きなので右から左へ読むべきところを、左から右へ描写されていきます。季節の順番からはズレますが、逆から聴くことで別のメッセージが得られるということです。

そこで『Spring』から見ていくと、子供の声と花火の音だったりが聴こえます。これが意味していることは、次の曲『They. Resurrect. Over. New.』から考えると、ルーペ自身の誕生を意味すると言えます。というのも、前回の記事で解説した通り、ルーペが生まれた1982年にゲーム『TRON』が発売されているからです。

そう考えると、次の曲『Adoration of the Magi』も自分を育ててくれた母親の話に変換できますし、『Madonna (And Other Mothers In the Hood)』も、そんな母親の苦労についての曲であることも想像できます。

その後の『Deliver』『Chopper』は、ゲットーで生きる子供たちが直面する危険についての曲です。したがって、冬を迎えると、外で遊ぶには危険すぎて家の中に留まることしかできないのです。なので『Winter』では、春夏秋に聴こえるような子供たちの遊ぶ声は聴き取ることができません。ルーペの成長の過程で、治安の悪い地域で育ったルーペの子供時代を表現しています。そして、家で遊ぶとしたらやれることはゲームくらいしかないですから、ここでもゲームとの繋がりが出てきますね。

ここからはルーペの人生においての次のステージに関しての話になります。『No Scratches』はルーペの恋愛の話にも聴こえますし、『Little Death』はルーペの友人がギャングの抗争等に巻き込まれ死んでしまう様子を描いています。『Prisoner 1&2』は、彼の友人が捕まる話として聴くことができます。『Fall』では、子供たちの声も少しですが聴くことができ、床を掃く音も聞こえますね。

そして、ここからはアーティストとしてのルーペが描かれていきます。『Dots & Lines』がファンやレコードレーベルとの関係性の話で、『Blur My Hands』は、そのような苦境にあっても自分自身を貫くことの重要性を歌った歌です。そして最後に、『Mural』で今のルーペが持つラップスキルを遺憾なく発揮し、自分がどんな存在であるのか、また、一つの大きな作品を完成させるという意味で、「壁画」を意味する「Mural」がタイトルになっています。

『Spring』が彼の誕生の瞬間なら、『Summer』は「死」でしょうか?実は、死ではなく、これからのルーペや、ヒップホップ業界が進む方向(=明るく平和で自由な世界)を意味しています。そういう点では『Mural』が「死」とも言えます(Atlanticとの契約が切れる=死ぬので)。契約が切れて自由になったルーペが、希望を持っているのです。

ここで、『T.R.O.N.』のサビ
Proceed to the next level.
の持つ意味がはっきりとわかります。困難を乗り越え確実に次のレベルに進んできたルーペは、まさに冬のような冷たい残酷なゲットーで生きるしかなかった子供から、自由でリスペクトされる1人の大人へと確実にレベルアップしてきたのです。

と、これがこのアルバム『Tetsuo & Youth』に込められた別の意味になります。全体を通してルーペ・フィアスコの半生を描いているのがこのアルバムになっています。何が言いたいかというと、ルーペ・フィアスコは天才だということです。

こういう深い意味やメッセージを持っているヒップホップのアルバムは数多く存在します。是非みなさんも見つけてみてください!

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