J. Cole “KOD” 感想⑥ 〜メッセージ〜

実は最近結婚しました。嘘です、ファントムです

これまで長々と『KOD』について書いてきましたが、今回で最後になります。(の、予定です)

ということで、コールのメッセージが多く含まれていると感じた2曲『Window Pain (Outro)』と『1985 (Intro to “The Fall Off”)』について書いて、『KOD』感想シリーズを終わりにしたいと思います。

まず、この曲は神に感謝するところから始まります。そして、これまでのコールのように、身の回りのものに感謝をしながら、過去の過ちについて懺悔をします。以前「kiLL edward」について書きましたが、ここでコールは”All I wanna do is kill the man that my momma cry”と、自分の母親を苦しめた父親を殺したいと発言します。悲しいね

コールはこれまで、自己愛の必要性について説いてきました(僕のソロポッキャスを参照)。そしてこの曲のタイトルは『Window Pain』ですが、何の窓なんだよ、と思って聴いてみたら、コール(もしくはこの曲における主人公)が持っているレンジローバー(高級車)の窓っぽいですね。その窓から外を眺めながら、コールは「高級車」という裕福であることを誇示できる所謂マテリアリズムを象徴するものは、いくら手にしたとしても自分を幸せにはしてくれない、ということに気付いてしまうのです。

ここからコールはさらに社会的な内容に踏み込みます。この曲の最初のナレーションで表現されているような、銃による事件であったり、このアルバムで触れられているドラッグなど、そういった出来事に対して批判するどころか、自らギャングの一員となりそれを助長してしまう人達を批判します。

しかし、同時に、ギャングになるしか生きる方法がないという現実に対しても批判します。薬や銃は、稼ぎになります。貧困に喘ぐ黒人がギャングとなり命を危険に晒しながらお金を稼ぐのは、人種差別が原因となっている大規模な投獄により、コールのように父親がいない家庭が多くあるからです。

こういった社会の実情の裏で、銃やドラッグによって家族を失う人が多くいる訳です。まさに、曲のイントロのナレーションのような出来事が起こるということです。だからこそコールは、簡単にドラッグに手を出したりしないように警告をしているわけです。

(曲中に「警告を聞かない」という表現があり、これは彼の周囲の人間を指しているのだと思いますが、可能性として、上記の内容をクールなものとして表現するラッパーがいるのも事実で、そういったラッパーに対するメッセージであるとも考えられます。深読みし過ぎかも知れませんが)

コールはこの曲で、アルバムのアウトロとして、このアルバムが伝えているメッセージをまとめながら強調している、と感じました。


アウトロの後にイントロがありますね?謎

この曲が何のイントロなのか、というのは2つ可能性があると言われてます。

1つは、普通に次のアルバムが『The Fall Off』で、その告知であるということ。

もう1つは、この曲で触れられている(と思われる)ラッパーがこれから没落(fall off)するという予告です。

実はコールのようなコンシャス(意識の高い)ラッパーは僅かながら批判されることがあります。以前コールのことをLil Pumpという若手ラッパーと、その関連の人達が批判しました。『Fuck J. Cole』とかいうナメた曲を作ってSNSに上げちゃう、お茶目なラッパーなんですけど、正直こういうラッパーが最近人気であることは事実なんですよね。

ただし、こういうラッパーは一曲デカいヒットを飛ばした後、衰退していく傾向があります。例えば、Lil Pumpは『Gucci Gang』以来デカいヒットはないですし、『Rolex』で有名になったAyo & Teoとかはもう名前すら見ません。『Panda』を出したDesiignerは近々コラボアルバム出すみたいなのでそれに期待したいところです。

そんな訳わからん批判を突然投げつけられたコールは、人生の教訓みたいなものをこの曲で伝えます(こういうのをTEDという講演会になぞらえて「give ◯◯ a TED talk」なんて言ったりします)。それが、俺も若い時はお金や権力とかパーティ⤴︎に目が眩んでいたけど、大人になるにつれて大事なことはそんなことじゃないって気付いたよ、という教訓です。しかもこういう若いラッパーは大体がトラップ系ラッパーで、それに対しても「セグウェイみたいなもんで、すぐ飽きられちゃうよ」とぶっ刺します。流石。

そして、こういったラッパーのファン層には白人や若い層が多い(イメージがある)ことにも触れます。結局全身にタトゥーが入って「ドラッグ!金!女!イェー!!」みたいな「バカな黒人」を、白人は見たいんだ、と。これも強い。でもこういうファン層が大人になっていくにつれて離れていってしまい、曲が売れなくなります。そしてお金が稼げなくなって自己破産、というラッパーあるあるになってしまうという。これがコールの言いたい『The Fall Off』なんだと思います。

コールさん、あんたスゲえぜ!


これでこのアルバムから得られる情報はほとんどカバーできたと思います。ここまで『KOD』が意味する3つ
“Kids on Drugs”
“King Overdosed”
“Kill Our Demons”
に関連して記事を書いてきました。しかし、コールがこのアルバムで本当に伝えたいことは、この3つではなく、以下です。
Life can bring much pain. There are many ways to deal with this pain. Choose Wisely.
現在アメリカ社会で起こっていることは、人種差別が根幹にあるとはいえ、自らの努力である程度解決できる部分が多いと思います。もちろん不可抗力のうちに起こってしまう出来事もありますが。だからこそ、今黒人の貧困層を取り巻いている負の連鎖に乗っかってしまうのではなく、そこから抜け出すために努力をしないといけないのです。

そのために、まず出来ることは何か。

Choose wisely.

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